口腔衛生学会が「探針」に見解
<「初期う蝕診断」における探針の意義に関する作業検討部会>報告


 口腔衛生学会は、作業部会を設けて、初期齲蝕の診断における探針使用の適否に関する文献のメタアナリシスを行い、学会雑誌(望ましい初期う蝕の診断法 50: 137- 152, 2000)に発表した。同部会報告は、ほぼ日本ヘルスケア歯科研究会の指摘に沿うかたちで、

  1. 先端の鋭利な探針の使用を避け視診を中心にすること
  2. COのみならずC1についても積極的予防管理の対象とし保存処置の対象から除外する

との考えを打ち出した。

 日本ヘルスケア歯科研究会では、初年度の重点課題として設立早々に「健診における探針使用問題小委員会」(1998年3月)を設置し、学校歯科健診における探針使用の見直しを求める活動を開始した。ここで鋭利な歯科用探針を用いた学校健診の有害性と感度の低さを指摘するとともに、この問題に関わりの深い大学人の考え方を調査した。その結果、鋭利な探針がエナメル表層を破壊し齲蝕を誘発するという指摘については、97%以上の回答者が承知していると回答した。またこれとは対照的に、探針の使用が診断の信頼性向上にはつながらないとする研究報告については、52%以上の回答者が「知らない」「理解できない」と答えた。また裂溝齲蝕を見逃すおそれがあるとしても、疑わしいケースは診療室での予防歯科的アプローチに委ねるべきだ、との考えに73%の回答者が賛意を示した。本会ではこれらの結果をこの問題に関わりの深い大学関係者に配布し、調査結果検討会を開催した。

 健診における探針の使用は、初期齲蝕の扱いについて、われわれが疑問を投げかるための象徴的な問題であった。これはたんに探針という器具の弊害や有用性の問題ではなく、初期齲蝕の扱いに関して「早期発見、即時治療」の考え方がもたらしている弊害に注意を喚起するものであった。

 健診において探針で精査するという考え方は、1968年の島田義弘の「学童永久歯における各種齲蝕性病変の進行速度とう蝕検出基準についての研究」(口腔衛生学会雑誌、16(1))に根拠をもつ。今回の部会報告は、新しい研究ではなく、初期齲蝕診断についての内外の文献に関するメタアナリシスである。この報告では、探針の弊害については触れられていないが、齲蝕診断とその後の保健管理について、全面的に新しい考え方を示した。その要点は以下のとおりである。

  • 齲蝕の診断をたんに検出手順と考えるのでなく、診断→処置決定→その後の管理についてのシステムの一段階と位置づけるべきだ。
  • 公衆衛生における初期齲蝕の診断は視診によるスクリーニングが望ましい。
  • 臨床においては、齲蝕が進行、停止、再石灰化など絶えず変化しているDynamic processであることを認識し、齲蝕活動性の評価が重要である。
  • 精密検査において歯科用探針はフィッシャーシーラントや保存修復処置に先行する行為に限定して使用すべきだ。
  • エナメル質に限局した齲窩が認められる齲蝕(C1)は、積極的予防管理の適応とし、保存修復処置の対象としない。