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- 6:00 PM 2013年4月12日
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ニュースレター vol.16 no.2(2013.4.25)より
杉山精一(日本ヘルスケア歯科学会代表)
私たちの会の理念は,予防的な考えに立った歯科医療に自ら積極的に取り組み,さらに日本のスタンダードとなるように活動をしていくことです.自分の医院の患者だけでなく,地域の人々すべてが予防的な歯科医療を受けられることを目標としています.
2009年に日本で初めてICDASについてのシンポジウムを開催してからすでに4年が経ちました.当時は,まったく知名度がなかったICDASですが,最近では歯科大学の授業に使用したいので写真を使用してもよいか,フォトパネルの写真を本に掲載したい,という要望も来るようになり,ICDASフォトパネルの注文も増加しています.会員の中には,すでにICDASを導入したカリエスマネジメントが日常の診療となっている医院もありますが,日本の多くの歯科医院は,まだまだ切削治療が主体のう蝕治療を行っているのが現実です.4年前のシンポジウムでは,ICDASを知ることが目的でしたが,今回は,一歩進んで,日本のう蝕治療をどのようにしたら変えることができるかをテーマとします.
●カリエスリスクコントロールは大事だが
「サリバテストを受けてカリエスフリーを達成しよう!」研究会の設立当時,この言葉は,私たち歯科医療者に新しい夢と希望をあたえてくれました.私の医院でも,サリバテストの実施率を高めることを目標にしていた時期もありました.しかし,長期間にわたりメインテナンスに来院する子どもたちを見ていると,リスクは常に変化するものであり,リスクを軽減できたかどうかを確認するためにサリバテストを実施するのはコストがかかり,実際にはほとんど実施できないのが現実でした.さらにリスクを把握してむし歯の発症を予防しようとしても,必ずしも完全に発症を予防したり進行を抑制できるわけではありません.リスクコントロールの重要性を理解しながら,その一方,歯面やエックス線検査で病変を見つけて,それを経年的に評価していくことの重要性に気づくようになりましたが,それらを的確に判定する基準がないことに悩んでいた時期に出会ったのがICDASでした.
●う蝕病変をどのような物差しで見つけて評価するか
フッ化物応用が普及していない当時のう蝕は,有病者率も高く,疾病の進行速度も速かったのですが,フッ化物含有歯磨剤が普及したことにより,有病率は低下し,進行速度も遅くなってきました.このような変化により,私たちが,う窩になる前の病変を治療できる状況が整ってきました.
ICDASとXRはこのようなう蝕が軽減した時代にマッチした物差しであるといえます.リスクの把握は,教育的にはサリバテストはとても効果的で意義がありますが,問診を主体としたリスク検査は,コストもかからず定期的に行えて,子どもたちのリスクの把握をするには,効果的だと思っています.
ICDAS,XR,リスクアセスメント,この三つを定期的に実施して経年的な変化のなかで最適な治療方法を考える,これらが切削修復から歯質を保存するう蝕治療への転換の重要な項目です.さらに,この治療のながれを一連のサイクルとして実施して,経年変化に対応できる,つまりマネジメントとしていくことが必要です.
●う蝕軽減の時代になぜ若年者のう蝕に私たちはこだわるか?
私は,この1年間,ICDASに関してマスコミの方から取材を何回も受けました.う蝕に関するこの数十年の変化について説明すると,マスコミ関係者は,削らないう蝕治療,歯質を保存する歯科医療の実現は,社会的にとても重要な出来事だと率直に評価してくれます.一方,歯科関係者は,う蝕の減少は修復の減少に直結するため,現在の日本の医療制度では,収入が減少するということで,ほどほどにしておけばよい,という声をたびたび耳にします.私たちの学会は,冒頭に書いたように,歯科医学の進歩を患者中心に考え,患者利益となることを実現するために活動する学会です.
本来であれば,う蝕に関する学会が率先して取り組むべき問題ですが,日本では,う蝕は口腔衛生学会,歯科保存学会,小児歯科学会など多学会にまたがるテーマであるため,総合的にう蝕治療を変えようという動きが見られないのが現状です.ヘルスケア歯科学会は,このような多学会にまたがる問題について,解決への道筋を議論する「場」を提供できる学会です.さらに臨床医としてのデータも提供して,具体的にディスカッションができる貴重な会です.
ヘルスケアミーティング2013では,日本口腔衛生学会,日本歯科保存学会,日本小児歯科学会の協力を得て,日本のう蝕治療を変えるために問題点を共有し,その解決のための活動をスタートさせる機会としたいと考えて「カリエスマネジメントの普及とその問題点の克服」というシンポジウムを開催します.そこでICDAS FundationボードディレクターのD. Zero教授(インディアナ大学)にう蝕に関しての基本から最新の考え方を整理して講演していただいて,口腔衛生学会からは,齲蝕委員会委員長の鶴見大学花田信弘教授,歯科保存学会からは,ちょうどこの10月に完成予定のう蝕治療のガイドライン第2版の紹介をガイドライン作成委員会委員長の鶴見大学桃井保子教授,小児歯科学会からはミュータンスの研究で活躍されている長崎大学の藤原 卓教授にシンポジストとして講演いただくことになりました.シンポジウムの案内も各学会の協力をいただいて広報し,この問題の克服のために多くの方の協力をいただけるような体制づくりを目指します.
う蝕治療は,歯科の根幹の位置するものです.その治療概念の転換には,学会からの提案だけでなくて,社会に対してアピールするような活動も同時に行うことによって達成できると考えています.そこで,この活動に特別なネーミングをして社会にアピールし,「削ってむし歯を治す」ではなくて,「健康な歯を守る」マネジメントプログラムの必要性を社会に提案していくことも検討していきたいと考えています.