一人では出来ないことも
「学会で」さらに「学会の連携で」何かを変えることができます
ニュースレター vol.16 no.4(2013.9.4)より
杉山精一(日本ヘルスケア歯科学会代表)
私は,今から18年前「診療室を予防型に変えよう」と決めました.ちょうどこの時期,8月3日にはじめてサリバテストを実際の患者さんに実施したときのことを今でもよく覚えています. 口腔内写真,サリバテスト,歯科衛生士の雇用,患者担当制など取り組む課題が山積みで途方に暮れることもありました.当時は,今のようにメールはありませんので,本を読んでもわからないことは,セミナー終了後の懇親会でいろいろと聞きました.おそらく多くの方が同じような経験を持っていると思います.現在はネット時代ですから,メールで尋ねることが簡単にできるようになりましたが,そうはいっても直接会って知っている人かどうかで,そのやりとりは随分と変わるのではないでしょうか.
6月には倉敷でワンデーセミナー,7月には北九州でヘルスケアウエストの研修会が開催され,どちらも150名あまりの参加者が集まり,会場は満員でした.新しい出会いから,その後もメールのやりとりなどで,診療や医院づくりにプラスになった人も多かったと思います.
10月のヘルスケアミーティングには,多くの方が,日頃の悩みやわからないことを抱えて参加してほしいと思っています.誰に聞いていいかわからなければ,会場の前で,忙しくしている人に声をかけて下さい.きっと誰に聞けばいいか教えてくれます.時間がない時は,名刺交換ができれば,あとからメールでやりとりができます.知り合いになって話をすると「実は私もそのことで悩んでいたんです」と話しが盛りあがることも珍しくありません.
実は私も,海外の学会(ORCA)に参加すると,新人です.海外留学の経験もなく英文の論文など書いたこともありませんから,誰も私のことを知っている人はいません.毎年,懇親会では誰か話ができる人はいないかとあたりを見渡していましたが,今年は4回目になり,ポスター発表をしている人に質問をしたり,Facebook友達ができたり,少しずつネットワークが広がってきました.
海外に行く前は,日本は歯科の後進国で海外(特に欧米)は,先進国だと思い込んでいましたが,知り合いになり話をしてみると,実はどこの国もそれぞれ悩みを抱えていることを知るようなりました.空港で,ある先生が「北欧は歯科のディズニーワールドだな」とつぶやいていたり,保険制度はあっても診療所が整備されていなかったり,すばらしいガイドラインを作成しているけれど,公的歯科医院は緊急対応だけで民間の歯科保険の加入は数パーセントだったりなど,どこの国も問題は山積みのようです.
振り返って日本の現状を見ると,歯科医師や歯科衛生士の数は決して少なくありませんし,年齢によって公的歯科受診が制限されることもなく,地方に行っても歯科診療所があります.治療費用は確かに低く設定されていますが,全ての年代をカバーしているかどうかという問題とリンクして考えることも大事だと思います(決して現状のままでいいと考えているのではありません).
「どのようにしたら解決できるか」という処方箋を書くのは大変な作業ですが,診療室でひとり悩んでぼやいていても何も変わらず,状況は悪化するばかりです.
学会では,個人ではできないことを,組織として取り組むことが可能になります.今回のヘルスケアミーティングでは,日本歯科医師会の後援も得て,日本口腔衛生学会と共催,日本小児歯科学会から後援,日本歯科保存学会のう蝕治療ガイドライン作成委員会の協力を得て開催します.各学会単独では難しい問題も,それそれが協力をすることによって,よりよい方向に進めることができると考えています.多くの歯科関係者に参加していただき,ネットワークの広がりで,さらに先に進む会にしたいと考えています.