第4期 第2回オピニオンメンバー会議 議事録
第4期 第2回オピニオンメンバー会議
日程:10月8日(日)午前10時30分〜12時30分
秋葉原コンベンションzsホール 5階会議室(5A)
議長 斉藤健さん/事録署名人 阿部敬典さん 堀祐子さん
定数64名 出席47名、委任状15にて成立が確認された。
【協 議 事 項】
1.「ヘルスケア型歯科診療」概念の対外的広報の充実
2.診療室数値目標の見直し
3. う蝕治療の診療指針(案)の提案)
4.ヘルスケアミーティング2018(20周年記念シンポジウム)
【報 告 事 項】
5. 歯磨剤ガイドライン
6. オピニオン会議と併催セミナーについて
7. 認証ミーティング
1.「ヘルスケア型歯科診療」概念の対外的広報の充実
「ヘルスケアって?」…一般的に通用していない内輪だけで通用することばを使うべきではないのではないか、と考える向きもあったが、今後、積極的に我々からこのことばを使っていくことにしたい。
一例としてデンタルダイヤモンド誌で、「What is ヘルスケア型診療?」の12回連載など。
「ヘルスケア型歯科診療」の意味を次のように解説する(歯科医療関係者以外の一般の人たちに対する解説は改めて提案する)。
ヘルスケア型歯科診療とは
「来院者へ病因論に基づいた治療とメインテナンスという継続システムをチーム医療で提供する新しい歯科診療のかたち」
です。
【参 考】
「日本ヘルスケア歯科学会」って何ですか?
「ヘルスケア歯科学会って何をする学会? 予防歯科の学会ですか?」と聞かれることがよくあります。そこで、私たちの学会はなぜ「ヘルスケア歯科」の学会かについて解説してみたいと思います。
“ Health Care(ヘルスケア)という言葉は、1978年のアルマ・アタ宣言(WHO)によって定義づけられた「プライマリヘルスケア」に由来しますが、それは公権力による上からの公衆衛生や薬のみによる感染症対策に代わって、食べ物、飲み水、住居、家庭状況など地域医療住民の参加や個人や家族の自己決定によって健康な生活を促すヘルスプロモーションを提唱したものです。その後、1993年に合衆国のビル・クリントンにより提案された「Health Care Plan 1993」をきっかけに、health careという言葉がよく使われるようになりました。従来の主に急性期医療を対象としたmedical careから、疾病予防や慢性期の看護・介護やリハビリテーションを含むものとしてhealth careという用語が使われるようになりました。すなわち、医師中心の救命医療から多職種による生活の医療へという大きな変化の中でヘルスケアという言葉が定着してきました。”
つまり、個人や家族の自己決定権を尊重し、医師中心の医療ではなく多職種による生活の医療、そこには病気の予防や健康な生活の支援、さらに介護までが含まれますが、その全体を「ヘルスケア」と呼んでいます。
う蝕と歯周病は歯科の二大疾患です。旧型の歯科の治療方針は、疼痛緩和、感染部位を除去(抜歯を含む)、咬合を回復するという、疾患の事後対応モデル、いわゆる急性期医療モデルでした。このモデルでは、歯科医師が診断・治療の主役であり、患者さんはそれに従い、医療スタッフがアシストするというシステムです。
しかし、う蝕と歯周病の病因論が明らかになり、疾病をより早い段階で発見して、適切な介入を行えば、進行を停止あるいは大幅に遅らせることが可能になることがわかってきました。このような考えに基づく治療を「病因論ベース歯科治療モデル」と呼ぶことにします。では、病因論ベース歯科治療モデルを行えるための社会的な背景と、診療室では何が必要となるか、そして歯科診療科の特性も含めて考えてみましょう。
■社会的な背景
病変を早期に発見して、適切な介入により進行を停止、遅らせることができるようになると、歯質の切削や抜歯が減少するため、長期にわたり口腔を良い状態に保つことができるようになります。しかし、早期発見するためには、無症状での来院が必要となるため、患者さんが自分が健康でいたいという気持ちが必要となります。つまり、主役は市民(患者さん)の意志になります。日本では、経済の発展により国民の生活レベルの向上と寿命の進展により、自分が健康でいるために積極的に行動する人は多くなってきており、病因論ベース歯科治療モデルを実践するための社会環境は整ってきていると考えられます。
■診療室では何が必要か
う蝕と歯周病の、初期病変の検出には、視診だけではなくエックス線検査などが必要となります。多因子性の疾患ですので、疾患の因子についての診査、つまりリスクアセスメントも必要です。口腔内の状態を規格性のある写真に記録することにより、患者さんと情報の共有が可能となり、さらに、臨床記録を時間軸で整理することは、疾患に対する介入方法と時期を診断する大事な基本資料となります。これらの作業は、医師だけでは不可能であり、院内の多職種の連携、つまりチーム医療が必要とされます。
■歯科の診療科としての特性
歯科は、医科の診療科と違い、診療室にはゼロ歳から90歳を越える人まで来院します。つまり生涯にわたり関わる診療科です。う蝕と歯周病は常在細菌叢が生活習慣により変化することにより生体側の防御機構とのバランスが崩れて発症する疾患であるため、人々のライフステージに応じて適切な問診を行って生活習慣を記録していくことは歯科衛生士の大事な仕事です。人の生活は、様々に変化するため、口腔内のリスクも同様に変わります。そのため、定期的にモニタリングして、専門家としての問診・診査を行い、時間軸で整理された資料をもとにして、適切な介入を行う、いわゆるメインテナンスにより、病因論ベース歯科治療モデルは成果を上げるようになります。
このように、病因論ベース歯科治療モデルは、人の生涯にわたるメインテナンスを通じて成果をあげることができるようになります。私たちの学会の診療室の臨床データからは、実際に小児若年期のう蝕による充填の減少と成人高齢者における喪失歯の減少の成果をあげていることが明らかになってきています。これは新しい歯科の形であり、これを私たちは「ヘルスケア歯科」と考え、それを行う臨床を「ヘルスケア型歯科診療」として提唱し、日本だけでなく、海外にも広めていきたいと考えています。
2. 診療室数値目標の見直し
診療室の目標(現行の数値目標)
1) 5歳児でカリエスフリー90%以上を達成する
2) 12歳児でカリエスフリー90%以上を達成する
3) 20歳成人でカリエスフリー90%以上 歯周病のない状態を実現する
4) 新たなう蝕・歯周病の発症をコントロールし、70歳時の平均欠損歯数を5歯以下にする
【見直しの理由】
ニュースレターの欄外に「診療室の目標」を掲げているが、これを削除することを提案します。設立当初、具体的な高い目標値を明確にすることの意義が議論され、長く数値目標を掲げてきました。
しかし、カリエスフリーという概念は、う蝕が非可逆的な硬組織の破壊であるとしていた過去の考え方を引きずっています。ICDASの紹介では、繰り返しこのことは指摘されてきました。またDoプロジェクトの調査1においても、初診患者の口腔内状態に顕著な地域差があることが明らかになっています。定期管理を重視するヘルスケア型診療所では、健康意識の高い患者を選別する圧力がかかりやすく、地域のプライマリケアの観点からはそのことに注意すべきですが、数値目標は診療所として健康意識の高い患者を選別する傾向を助長することを単純に是としてしまいます。しかし、意図して健康意識の低い住民にこそ時間をかけてアプローチするという考え方もあってよいし、あるいは事情によっては多少のう歯を許容するような予防管理の幅があってもよいと考えるべきです。また、家庭医として容易に数値化できない診療所の価値を高めることも重視すべきです。以上の観点から数値目標を削除します。
ニュースレターVol.19 No.5から削除することとします。
3. う蝕治療の診療指針の提案
日本には、う蝕学会がありません。そのため、非切削う蝕治療を取り入れた新しいう蝕治療の診療指針が提示されていません。
(う蝕治療ガイドラインはありますが診療指針は提示していません)
2015年に筑波で開催された口腔衛生学会の際(その後ICDASの保険導入という話があったため)に柘植さん(日本学校歯科医会副会長)と相談して、う蝕のDetection、カリエスリスクアセスメント、非切削う蝕治療、モニタリング、再評価などを入れたう蝕治療の診療指針を考案しました(公にしていません)。
しかし、今後、う蝕治療を切削う蝕治療から転換していくためには、ヘルスケア歯科学会としてう蝕治療をあるべきすがたで保険診療に導入するにはどのような診療の流れとするべきかを提示する必要があると考えています。
2018年の口腔衛生学会でシンポジウムの企画提案も、さきのFDIの発表も、これに関してですが、本学会としての原案をもっていないと議論がはじまりません。
初期う蝕治療の指針(案) 2017年10月(杉山)
1) Pitts のフレームワーク(スライド3)が基本だが、やや難解
2) 臨床医になじみのある歯周病の治療指針(スライド1, 2)を参考にした
3) 歯硬組織検査(ICDAS検査)を設定し、歯面を詳細に診査する
4) カリエスリスク検査を設定した
5) 非切削う蝕治療を設定した
4.ヘルスケアミーティング2018(20周年記念シンポジウム)
20周年記念となるヘルスケアミーティング2018の企画については、様々な意見があり、集約されていません。
現在の悩める女性ドクター・若手ドクターに、技術よりも大切な診療スタイルを分かってもらい、将来に希望の持てるプログラムにしたい(林)
第一部
今後の歯科医療に対する不安というか、歯科医療そのものの価値観の変化みたいなこと(林)
歯科界の問題点の変化(斉藤)
1) 問題提起(斉藤)
・ 20年前の研究会設立当時と現在とでは、歯科界における問題点は変化したところと、そうでないところがあるかと思います。現在の問題点を提起し、実際にどうすべきかを提示することが必要だと思います。
【変化したところ】
・ 20年前は予防的な診療が珍しかったが、現在は予防的な診療は珍しくなく、当たり前になってきた。が、ゆえに新しい問題が生まれてきて、「やり方が不適切or 不十分」。これには、一つは真面目に取り組もうとしているが、やり方が不適切、もう一つは、増患、増収目当てで「予防」を掲げる医院があり、患者がそちらに吸い込まれていくという事情があります。
【変化していないところ】
・ 小児歯科で衛生士の果たすべき役割が「患児、親としっかりコミュニケーションをとる。子供の目線に立って話をする。すばやく行動し、適切なアシストをする。」みたいなことであったり、「ブラッシング指導、おやつ指導」であったり、「深い裂溝はシーラント」であったり、我々が20年以上前に受けてきた小児歯科の内容とほとんど変わらない状況です。
・ リスクをどう見て、何をどう変えれば永久歯にう窩を作らず、長く健康な状態を保ってるかという長期を見据えた視点がないように思います。乳歯のう蝕が減ったからこそ、小児歯科医の役割が「乳歯の修復」から「一生涯健康な状態であるための支援」へと変化すべきと思いますが、それができていないと思います。
・ 「子供は小児歯科ではなくヘルスケア歯科へ行く」ということが当たり前になるように小児へのアプローチの見直しと提案を行うことも必要かと思います。
2)歯科界の現状の分析(斉藤)
・ 初診で来た患者の多くが、未処置う蝕の治療が主訴で、その対応に追われていた時代ではなくなってます。
・ 例えば初診時に全体のパノラマを撮って、根尖部の透過像を指摘し、「ここと、ここに根病気がありますから、治療しましょう」もしくは、「こことここの冠が古くて合ってないので、やり直しましょう」となって、治療のやり直しを勧める歯科医師が増えるとも考えられます。その他大勢の普通の歯科医師は、生活のために、このようなスタイルをとっていく可能性があります。
・ これからの20年を語る際に、20年後のことではなく、これからの20年の出発点である「今」の現状をもう少し分析した方が良いのではと思い、今回の主訴調査を提案しました。
3)今後の歯科界について
・ う蝕、歯周病が大幅に減少し、欠損補綴も少なくなると思われます。通常の患者側からみれば、歯科医院に来院する理由はう蝕・歯周病・補綴(再治療)ですから、従来型の治療をベースとしたやり方では若い開業医にとって、この少ないパイを取る診療では、将来の経営は不安と思います。従来型の治療を脱却して何か特化する一つの選択肢にヘルスケアがあると思います。
第二部
私たちは今後何をすべきか(具体的に)そして現在の問題点に対して、どうすべきか提示する(斉藤)
1)問題提起(斉藤)
メインテナンスで患者と関わっている診療所は多くあると思います。
「今までも、定期的に検診で通っていたので」と検診希望で来院した患者で、長年歯科にかかっていたにもかかわらず、歯肉縁下はノータッチ。患者にしてみれば、定期的に検診し、健康が保たれていると思っていたが、徐々に骨欠損は進んでいる。歯周病は自覚症状がないので患者は気がつかない。そのようなケースを提示し、何が問題なのか、初診時からの手順を追ってみていくことで、どうすることが良いのかがわかるかと思います。
2)患者のためにはこうあるべき
若手歯科医師は経験が浅いので、修復中心の歯科医療の問題点を肌で実感できておらず、ヘルスケアスタイルを導入する際の原動力が我々の時に比べて弱いと思います。そこに、経営的なことを組み込み、安心して踏み出せるようにしてあげるのも々の役目かと思います。
大学の予防歯科講座の悪いイメージのせいで「予防をやって食べていけるのか?」といった質問が今でも必ずついて回ります。保険診療中心で、経営的に当たり前にやっていけるということを
若い歯科医師に理解してもらえれば、ヘルスケアの普及を加速させることができる気がします。
3)結果的には私たちにもメリットがある
略
4)まとめ(杉山)
ひとことでいうと「ヘルスケア歯科ビジョン」です。ヘルスケア歯科学会が考える今後の日本の歯科医療のビジョンを提示する。それを実現するためのプランも提示する。