初期う蝕マネジメントガイド(冊子)
本書冒頭より
う蝕(小児若年者の歯冠部う蝕)は,経済成長とともにうなぎ登りに増えて,長く高止まりだった.しかし,戦後70 年を経て,う蝕の有病率は,砂糖が人の口に入らなかった終戦後の時期とほぼ同じレベルになった.この改善は,ヨーロッパ諸国よりほぼ20 年遅れた.フッ化物の応用の遅れ,病気の予防よりも修復に軸足を置いた歯科医師養成,社会保険の運用などいくつかの要因が考えられるが,この20 年だけを見ると,わが国のう蝕は量も質も低下した.しかし,軽度な疾患であるとはいえ依然として他の多くの疾患とは比較にならない高い有病率を示し,多くの人を悩ませる病気であることには変わりない.そして,う蝕はこれまでにも増して偏在している.
う蝕症のパンデミックが過ぎ去った現在,う蝕症の対処の方法も根本的に見直されるべきである.こうした認識から,日本歯科保存学会は,『う蝕治療ガイドライン』(第2 版,2015 年)1)を策定し,厚労省は2016 年4 月から社会保険診療報酬に「エナメル質初期う蝕管理加算」という定期管理型予防ケアに対する評価を組み込んだ.本冊子は,初期う蝕のマネジメントを早くから提唱してきた一般社団法人日本ヘルスケア歯科学会が,初期う蝕のマネジメントの普及を目的に,作成した手引きである.
Contents
1. う蝕という疾患の成り立ち
2. 初期う蝕マネジメントの流れ
3. う蝕病変の検出
3−1. 視診による初期う蝕の検出
3−2. ICDAS 診査のためには歯面のプラーク除去が必須
3−3. エックス線診査によるう蝕の検出
4. う蝕のリスクアセスメント
4−1. 生活環境・個人差
4−2. 口腔内環境の評価
4−3. 経過観察による活動性の評価
5. 治療方法の選択
6. 初期う蝕の治療
6−1. 平滑面・隣接面の初期う蝕
6−2. 咬合面・裂溝の初期う蝕
7. 歯の性状と形態のリスク
7−1. エナメル質形成不全(MIH:molar incisor hypomineralization)
7−2. 深い小窩裂溝などの解剖学的形態のリスク
8. う蝕マネジメントの成果