歯科衛生士業務(診療補助)ガイドライン(案)
歯科衛生士業務(診療補助)に関する業務ガイドライン(案)
平成25年3月
1)歯科衛生士業務における診療補助に関する業務ガイドラインの作成の意義
2)歯科衛生士の熟練度の指標(歯科衛生士各個人に対して)
3)ガイドライン項目一覧
4)ガイドライン作成マニュアル
5)歯科衛生士業務における診療補助に関する業務ガイドライン
作成:一般社団法人 日本ヘルスケア歯科学会
作成責任者:コアメンバー 河野 正清 (河野歯科医院)
作成協力者(敬称略、会員番号順)
薮下雅樹(まさき歯科医院)、太田隆温(太田歯科医院)、山口將日(山口歯科医院)
国井一好(国井歯科医院)、金尾好章(金尾好章歯科医院)、古仙芳樹(フルセン歯科)
千草隆治(千草歯科医院)、竹下哲(竹下歯科医院)、加藤徹(加藤歯科医院)
近藤明徳(こんどう歯科医院)、宇田川義朗(宇田川歯科医院)、浪越建男(浪越歯科医院)
大井孝友(おおい歯科)、鈴木正臣(鈴木歯科医院)、浦崎裕之(浦崎歯科医院)
槍崎慶二(うつぎざき歯科医院)、丸山和久(丸山歯科医院)、半田正(はんだ歯科医院)
丸山吉弘(丸山歯科医院)、齋藤健(さいとう歯科)、中川正男(中川歯科医院)
米山吉洋(幕張ドルフィン歯科クリニック)、高橋啓(たかはし歯科)、安田直美(クリスタル歯科)
川嶋剛(川嶋歯科医院)、大久保篤(おおくぼ歯科)、鈴木朋典(鈴木歯科医院)
橋本昌美(こがはしもと歯科医院)、林浩司(はやし歯科医院)、上田康弘(さくら歯科医院)
宮本学(宮本歯科・矯正歯科)、羽山勇(羽山歯科医院)、雨宮博志(あめみや歯科医院)
長岡守(カメリアクリニック)、滝沢江太郎(たきさわ歯科クリニック)
ほかコアメンバー(岡本昌樹、森谷良行、田中正大、斉藤仁、杉山精一)
1)歯科衛生士業務における診療補助に関する業務ガイドラインの作成の意義
はじめに
地域住民の健康を守り育てるためには、歯科医師や医師ばかりでなく、多様な保健・医療専門職や教育・福祉介護関係者の連携協力が不可欠です。その中で、かかりつけの歯科診療所は、地域住民の健康を家族単位で生涯にわたって守る役割をもっていますが、それを支えるのは、歯科医師はじめ歯科衛生士、歯科助手、受付、歯科技工士等のチームです。とりわけ、長い年月にわたって通院者に深くかかわり寄り添う歯科衛生士の存在は重要です。
しかしながら、古い考え方では、歯科衛生士を歯科医師の手足や手伝いのように考え、いまも歯科衛生士自身が自分で考え、患者にかかわることを軽視する風潮が残っています。また、法律を誤って解釈して歯周病患者の歯周組織検査や歯周初期治療、メンテナンスケア等を歯科衛生士が実施することについて、法的根拠がないと主張する歯科医師もいます。
地域住民が、痛みの除去や歯の修復だけではなく、健康と若々しく快適な生活を維持し、そして障害があっても楽しく暮らすためには、「由らしむべし知らしむべからず」の歯科医師中心の修復治療に偏った医療ではなく、むしろ患者さん自身の健康意識と行動を変えることが最優先です。このようなヘルスケアのフェーズでは、チーム医療にかかわる職種の自立心や責任感、そして専門家としての知識と経験、職能としてのプライドと自覚が求められます。わたしたちは、このような時代の要請に即して、歯科衛生士がその業務を適切、適法に実施していくことができるように、歯科衛生士の「診療補助」に関するガイドラインを作成します。
(1) 歯科衛生士の歯科医師行為の法的根拠
歯科衛生士という職種は、歯科医師がすべき仕事(歯科医行為)のいくらかを歯科医師に代わってすることができます。その法的根拠は、歯科衛生士法第二条2項の「診療補助」です。「診療補助」とは当初、保健師助産師看護師法という法律で、「傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助をおこなうこと」(保助看法第五条)が看護師、準看護師、保健師及び助産師だけに認められたものでした(保助看法第三十一条第一項及び第三十二条)。この保助看法の規定にもかかわらず、「歯科診療の補助をなすことを業とすることができる」としたのが、歯科衛生士法の第二条2項です。つまり、医師の行為(医行為)における看護師と同じように、歯科医師の行為(歯科医行為)のある部分については歯科衛生士が代わりをすることができるのです。
診療補助とは、言葉から連想されるように、セメント練和やバキューム操作等のアシスタントワークではありません(アシスタントワークには歯科衛生士の資格は不要)。
歯周病患者の歯周組織検査や歯周初期治療、メンテナンスケア等を歯科衛生士が行う法的根拠は、このように歯科衛生士法第二条2項の「診療補助」にあるのです。
(2) 歯科衛生士の三つの業務
歯科衛生士法は、第二条に、歯科衛生士の業務内容を規定しています。「予防処置」「診療補助」「歯科保健指導」が歯科衛生士の業務ですが、最初に法律ができたときは「予防処置」(昭和23年)のみ、昭和30年の改正で「診療補助」、そして平成元年の改正で「保健指導」が加わり、現在、「予防処置」の項目から「歯科医師の直接の指導の下に」とする制約を外す改正が検討されています。このような事情から最初の「予防処置」については事細かに歯石除去やフッ素塗布ができることを記し、それを露出根面と正常な歯肉縁下に限定しています。この「予防処置」に関する事細かな規定(第二条)のために、歯周病患者の歯周組織検査や歯周初期治療、メンテナンスケア等を歯科衛生士が実施することはできないとする解釈が生まれるようですが、これは法律の誤読です。その背景には、歯科衛生士に歯科医行為を任せるべきではないとする考え方があるのでしょう。
(3) 診療補助と相対的歯科医行為
では、歯科衛生士資格があれば、だれでもどんな条件でも歯科医行為を肩代わりできるのでしょうか。そうでは、ありません。
歯科衛生士法第13条の二は、それを規定しています。ちょっとわかりにくい条文ですが、「歯科衛生士は、歯科診療の補助をなすに当つては、主治の歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、又は医薬品について指示をなし、その他歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。」と記載されています。この意味は、主治の歯科医師の指示があれば、診療機械の使用、医薬品の授与、医薬品についての指示、その他衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしていい、ということです。
では、歯科医師は何でも歯科衛生士に指示してしまっていいのでしょうか。それは、診療補助のそもそもの趣旨に反します。
歯科医行為のうち、診療補助として行うことが可能なものは「相対的歯科医行為」と呼ばれ、歯科医師自らが行う「絶対的歯科医行為」と区別されています。
昭和62年に日本歯科医師会に提出された「歯科衛生士の業務範囲についての調査報告書」では歯科診療の補助の業務について以下のように記載されています。
歯科衛生士教育のレベルとその浸透度、実際に業務に従事している歯科衛生士の知識技能の状況などから考えて
(1)歯牙の切削に関連する事項
(2)切開や、抜歯などの観血的処置
(3)精密印象をとることや咬合採得をすること
(4)歯石除去のときの除痛処置をのぞいた各種薬剤の皮下、皮内、歯肉などへの注射
などは、主治の歯科医師が歯科衛生士に指示することは適切でないと考えられる。
つまり、上記4項目は歯科医師のみが行うことができる「絶対的歯科医行為」であり、それ以外は歯科衛生士が歯科診療の補助として行うことができる「相対的歯科医行為」です。ただし、「絶対的歯科医行為」と「相対的歯科医行為」の線引きは、具体的に明瞭に決まっているわけではありません。
(4) 歯科衛生士の知識技能のレベル
診療補助として歯科衛生士に委ねることのできる「相対的歯科医行為」の範囲は、主治の歯科医師の判断に任せられています。
22006年にこうべ市歯科センターにおいて歯科衛生士が日常的に行なっていた採血、投薬について、業務違反ではないかという疑いが出されたことがありました。このとき厚労省歯科保健課は、「今回は条件が整っており法に触れないが、技能がない場合などは違法行為の可能性がある」との見解を出しました。これは「歯科衛生士の業務範囲についての調査報告書」にもとづく見解です。
主治の歯科医師がその歯科衛生士にさせてよい、と判断したときには合法的に歯科診療の補助とみなされるのですが、この場合には、指示された歯科衛生士はその行為から生ずる結果について責任がもたなければなりません。したがって、歯科衛生士はその指示に応ずることのできる知識技能を持っていなければならない、とされているのです。
つまり、歯科衛生士に歯科診療の補助を指示して行なわせるには、その歯科衛生士がその指示に応ずることのできる知識技能を持っていることが前提条件とされる、ということです。
その指示に応ずることのできる知識技能をもっていない歯科衛生士に、歯科診療の補助を指示して行なわせた場合には、合法的ではなくなり違法となるのです。このことは、極めて重要な意味をもっています。
歯科衛生士に歯科診療の補助を指示して行なわせるには、常にその歯科衛生士の知識技能のレベルを判断する必要があります。この判断に関して、同じく「歯科衛生士の業務範囲についての調査報告書」において以下のように記載されています。
一つの行為の名をあげて、一律に指示の適否をあげるのではなく、その時の状態によって異っている。
まずその患者の状態、その行為の影響の軽重、その歯科衛生士の知識技能の状態によってその都度決まるものである。
つまり、歯科医師は、指示して行なわせる行為一つ一つについて、その患者の状態、その行為の影響の軽重、その歯科衛生士の知識技能の状態について判断を行なっていく必要があります。
(5) 歯科衛生士業務ガイドラインの作成
ここで重要なことは、あくまでも地域住民の健康を守り育てるうえで、歯科衛生士の自立した判断や行為こそが安全で効果的で有効だ、という事実です。
では、このような診療補助を指示して行なわせる際に、行為一つひとつについて、どのような診断、判断、指示を行なっていけばいいのか。歯科医師、歯科衛生士の双方が適法に歯科診療の補助を行うために、日本ヘルスケア歯科学会では、歯科衛生士業務における診療補助に関する業務ガイドラインを作成することにしました。




